室内楽の宝庫として、コアな室内楽ファンから、
新しい室内楽にファンに至るまで
幅広く包括しているサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
(以下CMG)は、梅雨時における、
サントリーホールの風物詩として、
すっかり定着したといってよいだろう。
 
アッコルドとして、今年のCMGを振り返ってみたい。
(今年の写真館の1〜4もご参照ください。)
 
今年のCMGは、6月7日、サントリーホール館長の
チェリスト堤剛氏プロデュースのオープニングで始まり、
6月22日、ウィーン・フィルのコンサートマスターである
ライナー・キュッヒル氏をはじめとして、
日本の若手から中堅、ベテランまでの多くの演奏家の参加のもと
行なわれたフィナーレまで、3週に亘り展開された。
 
CMGの人気イヴェントの一つである
「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会」をはじめとして、
コンサートは連日満員であり、
CMGが力を入れている
サントリーホール室内楽アカデミーのフェロー達の
演奏会や公開講座も、例年以上に盛況を極めたものとなっていた。
 
そして、ほぼ全日、全部のコンサートに通った聴衆も
少なからずいたのである。
 
 
●キュッヒル・クァルテットの登場
 
アッコルドとしてのCMGの取材は、
まず、CMGの人気イヴェントの一つである
「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会」に登場する
ライナー・キュッヒルさんの取材から始まった。
昨年の11月9日のことである。
 
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏は
2011年の第1回めのCMGから続けられている。
 
第1回目の演奏団体が「パシフィカ・クァルテット」。
今回も室内楽公開マスタークラス、ゲストコンサートで参加していた。
第2回目が「ヘンシェル・クァルテット」。
第3回目が「ボロメーオ・ストリング・クァルテット」。
実力、人気のある比較的若い世代のクァルテットであったが、
今回は、正にベートーヴェンの流れを汲む
いわば重鎮の登場だった。
 
ライナー・キュッヒルさんにお会いするのは久しぶりだ。
かつて、まだウィーン・フィルのコンサートマスターに
就任して間もない頃にインタヴューしたことがある。
キュッヒルさんは、とても明るくユーモアのある方だ。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の研究、
アナリーゼの話から始まり、
演奏での扱い方が常に問題となる大フーガについて質問すると、
彼の考えをしっかりと話してくださった。
それは信念に近いものだった(参照1)。
 
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲演奏という、
ある意味過酷な演奏会をどのように遂行していくのか、
興味深いところだったが、
こともなげに、音楽はエネルギーの元ですから、
と言われたことが印象的だった。
大好きなことをやるのに、疲れませんか?と聞くのは正に愚問だった。
 
しかし、実際、本番でキュッヒル・クァルテットが
どのような演奏をするのだろうか。
キュッヒルさんは、自己が持つ音楽的イメージを実現するために、
信念をもった演奏をしていたように感じた。
それは、最初から最後まで終始一貫変わらなかった。
 
音楽作りという面では、
キュッヒル・クァルテット独特のものを作り上げていた。
ある意味、これまでの恒常的な活動をしているクァルテットとは
また異なった音楽を追求していたように思う。
その信念をもった演奏に、
多くの聴衆は感動で涙していたのである。
 
 
●人気作品&新しいレパートリーの開拓
 
今年のCMGでは、人気のある室内楽作品や著名な作品だけでなく、
新たな鑑賞レパートリーに加えてもらおうとの意図も見えた。
 
例えば、6月17日に演奏された
パシフィカ・クァルテットによるシュラミット・ラン作曲の
「燦・凶・礫・憶(さん・きょう・れき・おく)──弦楽四重奏曲第3番。
この作品は、ミュージック・アコード、サントリーホール、ウィグモアホール共同委嘱作品で、アジア初演であった。
 
この一見難しそうなタイトルは、各楽章のタイトルを見れば、理解へ繙くことができる。Ⅰ.起こったこと Ⅱ.脅威 Ⅲ.「もし僕がいなくなっても──僕の絵は死なせないで」 Ⅳ.礫・憶
 
現代音楽をどのように演奏するのか、
パシフィカ・クァルテットのシッビ・バーンハートソンは、
かつてインタヴューでこのように語った(参照2)。
 
シッビ
どうやって現代の曲に取り組むのですか、
どのようにアプローチするのですか、とよく訊かれるのですが、
現代曲はこのように取り組まなければいけない、
このようなアプローチをしなければならない、
というように決めつけてしまっている方が多いようです。
 
実は本当のところ、
モーツァルトとそれほど違いはありません。
もちろん、使う言語も違いますし、当然のことですが、
リズムの作りも違います。
 
でも、私達は非常に多くの現代曲を取り上げていますが、
その経験から言いますと、
基本的にはモーツァルトを演奏するときと
何も変わらないアプローチをして構わないのだと思います。
 
現代音楽も過去のクラシック作品と同じスタンスで
演奏されているとしたら、
聴く我々も、現代音楽だからといって身構える必要も無く、
ふだんと変わりなく聴けばよいのだとということであろう。
 
今年のCMGには、
このような意欲的なプログラミングが随所に散りばめられていた。
 
ハープ奏者の吉野直子さん(参照3)を中心とした、
ENJOY!ウェークエンドのVol.6(6/21)では、
ヒナステラのトゥクマンの歌Op.4、
クラムのマドリガル第3巻、
細川俊夫の「二つの日本民謡」黒田節、五木の子守歌、
シェーファーのテーセウスといった意欲的なプログラムが組まれ、
フィナーレ(6/22)でも、
武満徹の「そして、それが、風であることを知った」が演奏された。
 
●重鎮と中堅と若い世代が一堂に
 
ENJOY!ウェークエンドは、全部で6回行なわれたが、
それぞれ弦楽四重奏、五重奏、八重奏、ピアノ三重奏、四重奏……
といった室内楽の名曲から一つの楽章を演奏するという
ある意味、CMGの中でも特に親しみやすいコンサートであった。
 
クラシック、とりわけ室内楽に興味を持ち始めた方は、
来年のCMGで、ここから聴き始めることをお勧めしたい。
 
演奏は、CMGに毎年参加し、
サントリーホール室内楽アカデミーの講師として
重要な役割を果たしているクァルテット・エクセルシオ(参照4)、
そしてサントリーホール室内楽アカデミー・フェローの皆さんが、
中心である。
クァルテット・エクセルシオは、今年デビュー20周年の
日本を代表する弦楽四重奏団である。
演奏と演奏活動の展開に
独特のポリシーをもった団体で、
彼らがCMGの音楽の土台を支えてきたと言っても
過言ではない。
 
CMGは、世界的な演奏家から、中堅、そして次代を担う若者達が
一堂に会する空間としても興味深いものがある。
 
その特徴的なものが、フィナーレ(6/22)での
ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」から
春、夏、の演奏だった。
ソリストにライナー・キュッヒル氏を迎え、
フェローの皆さんを中心としたアンサンブルの共演は、
正にCMGを象徴する姿で圧巻であった。
(アッコルド・青木日出男)
 
 
 

 

今年のサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

重鎮・中堅・若手、新しい作品との邂逅